服に込められた想いを纏う。モノが溢れる現代の「新しいファッション」の姿

モノと情報が溢れかえる現代においては、どの服を買うのか選択することさえ難しい。ましてや多くのファストファッションブランドから、次から次へと新しい製品が発表される状況ではなおさらだ。
そんな時代を生きる私たちには、「どうしてこの服を着たいのか」という明確な理由を持って、購買の選択をする姿勢が求められるはずだ。

デザインや価格だけでなく、その服のストーリーや創業者・生産者の想い、さらには生産の背景にある人や動物、地球環境のことなど、様々な側面を考慮することが出来たなら、それはとても素敵なことではないだろうか。

デザインと価格だけでいいのか

デザインと価格。洋服に限らず多くの物を選ぶうえで、誰しも初めに考慮するのがこの2つだろう。「デザインがお気に入りで価格がお手頃なら、それだけで購入を決めるには十分だ」という考えに、異を唱える人は決して多くないはずだ。なおかつそれがテレビやメディアに取り上げられていたり、著名人が着ていたり、最低限の機能性を備えていたりするならば、多くの人にとって買わない理由は無い。

 

 

 

でも一度考えてみてほしい。その服を来年も再来年も着たいと思えるかどうか。

もし自信を持ってイエスと答えられないのなら、それは購入を決める理由が弱いかもしれない。流行のデザインが変化し型落ちした服、価格がお手頃で容易に手に入れることが出来た服に対して深く愛着を持つことは、きっと多くの人にとって難しいのだろう。
日本における衣服の廃棄量が、年間100万トンを超えているというデータが、そのことを物語っている。
なにせ、2018年に日本市場に供給された衣服28億着のうち、およそ15億着は新品未使用のまま廃棄されているのだ。

もちろん流行を追うのが良くないとか、高いお金を払ったら良いという話ではない。どれだけ深い愛着を持って、長く使い続けられるかということを購入の基準に入れることが大切なのである。

そうして自分の好きなデザインがどういったものなのかを言語化し、丈夫な素材で作られた長持ちする製品に対して、いつもより多くのお金を支払う。そこに価値を見出すことが出来れば、その服を着る理由が少し明確になるのではないだろうか。

ストーリーと世界観に価値がある

ファッションブランドと名の付くものには必ず、誕生の背景にストーリーがあり、明確なコンセプトが存在する。彼らが売り物にしているのは衣服ではなく、そこに込めた想いであり、世界観であり、理想のライフスタイルである。

 

 

それらは実に多様で、一つとして同じものはない。アニエス・ベーはタイムレスでシンプルなデザインを通して、着る人の個性を引き出すことを目指し、ラルフローレンはウィンザー公に代表される1930年代のルックを現代風に昇華させ、誰もが憧れる優雅な暮らしを提案し続けている。ジーンズの第一人者であるリーバイスは、人々の声に耳を傾け、社会の偏見に対しても声をあげ続けてきた。

 

服そのものの魅力だけではなく、そうしたコンテキスト(文脈)を踏まえて選択していくことは、より愛着を持って洋服を着ることにもつながるはずだ。

 

 

同じ服を着ていても、なにを意図して着るのかが違えば、自ずと引き出される魅力も違ってくる。

より本質を理解し、明確な理由をともなった着こなしは、きっとあなたの魅力を最大限に引き出し、自信を与えてくれるだろう。

 

その服が誰かを苦しめていることもある

信じられないかもしれないが、私たちはこれまでに多くの人々と地球を犠牲にして作られた洋服を着てきた。今ワードローブにある洋服だって、たくさんの犠牲のうえに作られたものかもしれない。

世界保健機関 (WHO) と国際労働機関(ILO)の調査によれば、洋服の生地となるコットンの生産過程で、毎年2~4万人の農家の人々が農薬の中毒によって死亡しているとされる。また現にファッション産業は、石油産業に次いで2番目に地球環境を破壊しているという調査結果もある。

 

 

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2013年に起こったラナ・プラザの事故*では1,100人以上の衣料労働者が命を落とし、ファストファッションの安さの裏に隠された、重大な問題が明らかになった。

高級とされるリアルレザーやリアルファーは、新たに森林を切り拓いて家畜を放牧し、その家畜を殺すことで生産されていることもあまり知られていない。

 

*1) 2013年4月24日、バングラデシュの首都ダッカ近郊で「ラナ・プラザ」ビルが崩落し1,100名以上もの衣料労働者が亡くなった事故。このビルには、ヨーロッパの大手ファッションメーカーが多く入っており、その安全管理や働き手の人権の扱いが疑問視され、安さの裏にある問題が浮き彫りになった。


衝撃的かもしれないが、これは事実であり現代社会の抱える大きな課題である。苦しむ人々や動物、地球環境の破壊と引き換えに生産された衣服が、果たして本当にファッショナブルと言えるのだろうか。そうした服を着たいだろうか。

ラナプラザの事故以降、ファッションレボリューション(Fashion Revolution)をはじめとする機関が業界の変革に取り組み、サプライチェーンの抜本的な改革を目指している。

世界的なプレタポルテのなかでも、ステラマッカートニーのようなクルーエルティフリー(動物を傷つけず、殺さない)かつサステイナブル(持続可能)でありながら、高いデザイン性を保ち続けるブランド経営が注目を増し、スタンダードな姿勢となりつつある。

これからのファッションの姿

 

この数年の間に、衣服を提供する側に大きな認識の変化が起こっている。それは同時に、消費する側である私達にも認識のアップデートが求められているということだ。

 

高いデザイン性の服を華麗に着こなすことこそがクールとされていた時代は終わりを迎えようとしている。

これからの時代に求められるファッショニスタとは、コンテキストに共鳴し、その服の持つ本質的な魅力を表現することが出来る人ではないだろうか。

もちろんそれは、人や動物、地球環境のすべてと共存していく姿勢をスタンダードに兼ね備えていることが前提である。

 

「洋服を着ることは、一つのスタンスを選ぶこと」
表層的ではなく、よりアカデミックな理由を持ってその一着を身に付け、1つのスタンスを纏うこと。それこそが、これからの時代もっともファッショナブルで、憧れずにはいられないスタイルとなるだろう。