あたたかさのおすそわけ。ナポリで見つけた「保留コーヒー」

イタリア・ナポリで訪れたカフェでの出来事だ。メニューには “Suspended Coffee” という初めて目にする言葉があった。コーヒーの名前かと思いスタッフに尋ねてみたところ、とても素敵な話を聞かせてくれた。

 

Suspended coffee とは

日本では「保留コーヒー」と呼ばれる “Suspended Coffee” (イタリア語で Sospeso cafè、スペイン語でCafé pendiente)。これはナポリの伝統的な習慣に起源を持つ。バルやカフェでコーヒーを注文する時に、コーヒーを必要としている他の誰かのためにも事前に料金を支払い、“保留” しておくシステムだ。

 

 

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保留コーヒーにまつわる有名なエピソードがある。

ある日私と友人は小さなカフェに入り、それぞれコーヒーを注文した。テーブルに付こうとすると、2人の客がカウンターに向かい「コーヒー5つ。3つは保留で」と、コーヒー5杯分の支払いを済ませていた。「コーヒーの保留って何?」「見ていればわかるよ」。暖かい日差しの中、カフェの前にある広場の眺めを楽しみながらも、私はコーヒーの保留について考えていた。すると突然、みすぼらしい服を着た男がカフェのドアを開けて、店員に丁寧な態度でこう尋ねた。「すみませんが、保留のコーヒーはありますか?」コーヒーの保留。それはとてもシンプルな仕組みだった。人々は、温かい飲み物を買う余裕のない誰かのために、先払いをしていたのだ。

 

 

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貧富の差が激しいイタリア。その中でもナポリはあまり裕福でなく、コーヒーを買うのもやっとな人々が少なくなかった。こうした人々への思いやりで、この文化は1860年頃から始まった。

しかし、だんだんとその伝統を続ける店舗は減少していった。そんな中、2010年に “Rate del sospeso(保留コーヒーネット)” が立ち上がり、ナポリ市長はこの文化を世界中に広めようと、2011年、世界人権デーにあたる12月10日を “Giornate del caffè sospeso Giornata del Caffè Sospeso(保留コーヒーの日)” と決定した。

 

 

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この文化は海を渡り世界中に広がった。

アメリカのコーヒーチェーンのスターバックスは、2013年4月にCSRとしてこのシステムを取り入れた。コーヒーを注文するときに「Suspended Coffee」の一言とともに2杯分の料金を支払うと、1杯分の代金が英チャリティー団体Oasisに寄付される仕組みを、ヨーロッパで開始したのだ。こうして保留コーヒーは世界中の人々のコンセンサスを得つつある。

ボランティア活動というと、少し大変なイメージを抱き身構えてしまうかもしれないが、“ついでに” という手軽さや、本当に必要としている人に提供するという健全さ・明確さがこの活動の波及を助長している。

 

 

日本での広がり

日本でも保留コーヒーを実践しているお店がいくつかある。なかでも、神奈川県川崎市にあるお店の形態は少し特殊だ。初めは他の多くのお店と同じように、おつりを募金してもらう。そうして集まった募金の2倍の金額を、お店からNPO法人に寄付するというものだ。

また、宮城県いわき市にあるレストランでは、「保留コーヒー」として集まった代金を、年に一度「津波遺児支援団体」に寄付している。

保留コーヒーを “募金” という形で支援団体に送るシステムにすることで、私たち日本人にも受け入れやすくなっているのだ。

 

 

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“Pay it forward”

日本語で「恩送り」と訳されるこの言葉は、誰かから受けた恩を別の誰かに送ること。

たった一人では、大きなことは出来ない。しかし、一人一人の小さな恩送りが重なりあって、いつか自分や周りの大切な人に、大きな幸せをもたらしてくれるだろう。