パリ。それは、世界中から才能溢れるアーティストたちが集まる芸術の都である。エッフェル塔やシャンゼリゼ通りに想起される華やかなパリ市街地を少し離れれば、そこには厳しい現実と戦いながらも夢を追い続けるアーティストたちのリアルがある。
残念ながら、彼はまだ描くことだけで生きていける訳ではない。帰宅したあとは、パソコンで翻訳の仕事をしていた。
画家として、パリで生きるとは
この旅で出会ったのはベトナム出身の画家マニカンだ。現在67歳の彼は若くしてパリへ移住し、絵を描き続けてきた。私はカウチサーフィンで知り合った彼の家に4日間滞在することになった。 彼の家はパリ12区・リヨン駅からほど近い、年季の入った小さなアパルトマン。部屋の鍵が開かなくなるのも日常茶飯事といったほどに歴史のある建築であった。 家の中は書きためた作品で埋め尽くされ、家具は最低限しか持っていない。給湯器はなく、家ではお湯を使えない。そのため朝はパリ市営のシャワーに通い、時には彼の友人宅のシャワーを借りた。 きっとそれは、誰もが想像する絢爛なパリジャンのイメージとはかけ離れたものであろう。彼もそれは自覚している。
リヨン駅周辺は素敵なお店の建ち並ぶエリアで、治安も良い。映画の世界のように美しいパリだってたくさんある。まさに理想と現実が交差するといった街であった。
彼の一日は非常にシンプルだ。朝からルーブルやオルセー、オランジェリーなどの美術館に通い、観光客の少ない画廊にある絵画をひたすらに模写し続ける。そうして日が暮れた頃に帰路につくのだ。