旅の一枚の写真と、それにまつわる唯一無二のストーリー。そんな自分だけの(=own)旅の記録(=graphy)を集めたギャラリー「Owngraphy」。

ダブリン / アイルランド | Owngraphy #04

12月初旬、鉛色の空がアイルランドを覆う季節のことだ。実は私たちは、この景色を知りもしなかった。この景色は、目的地への道中に突然現れたのだ。私たちは厳しくも美しい大自然を求めて、クレア州に位置する「モハーの断崖(アイルランド語で「破壊の崖」の意味)」へと向かうバスの中にいた。

乗客を乗せダブリンを出発した観光バスは、西へ、西へと進む。鬱陶しい雨がバスの窓を打ちつけていた。空は相変わらずどんよりとした鉛色だった。憂鬱だった。おしゃべりに飽きて眠り込んでしまう者さえいた。

そんな中、隣に座るアイルランド人の友人が窓の外を見て目を細める。「見ろ、skinny rainbow(貧相な虹)だ」

その視線を追った瞬間、私はこの雄大な景色を目の当たりにした。雲間から覗くほのかな陽光と、裾野に朝靄を纏う小高い山。
これこそが、数多くの妖精の神話が語り継がれる国、アイルランドの真髄だと感じた。一瞬の晴れ間の出来事だった。

麓の霞、頂の傘のような重々しい雲、そしてその遥か高みから青空を覆い隠す薄い綿雲、全てが幻想的だった。丁寧に手入れされた草原のなかにこぢんまりと佇む民家も、ありのままのアイルランドの素朴さを感じさせてくれる。

自然と調和して物語が紡がれていくようなこの1枚は、私の心をつかまえて離さない。